妻からのDV(逆DV)
ふつうDVというと、夫からのDVを思いおこされることでしょう。
ですが時々、男性も相談に来られることがあります。
妻からのDVは、だいたい1割くらいと言われていますが、男性は相談に来にくいですし、数の把握は難しいと思います。
本当はもっと多いんじゃないでしょうか。
男性のDV相談には、公的にできることが限られます。
それを納得していただき、相談を聞くのですが、やりきれないことが多いです。
このページでは、今まで相談を受けてきてわかった、
についてお話しします。
夫からのDVと妻からのDVの違い
DV夫については、DV加害者の心理や、DV加害者の特徴などでお話しした通りです。
またDVの構造は、DVでの共依存のとおり、
「愛している」という名目で、妻をコントロールする夫。
↑
↓
「愛されている」という名目で、虐待に耐え、メリットをもらう妻の構図です。
ここでは、逆DVについてお伝えしているので、反対になった、
「愛している」という名目で、夫をコントロールする妻。
↑
↓
「愛されている」という名目で、虐待に耐え、メリットをもらう夫の構図になります。
逆DVの場合も、表面的にやっていることは同じです。
・DV妻が夫の生活全般をコントロールし、
・4つの種類の暴力を使って、妻の言うとおりにさせ、
・夫は妻に依存することしかできず、
・暴力は繰り返され、
・暴力はエスカレートし、
・共依存におちいり、
ふたりとも抜け出せなくなります。
が・・・。
逆にならないことがあります。
それは、
「男女の役割」なんです。
体裁はまったく逆になっているのに「男女の役割」だけは同じなので、ちょっと違うDVの形になっていきます。
DV妻は夫に、
・男のくせに稼ぎが悪い。
・(夫の)ハゲが子どもにうつる。
・男のくせにナヨナヨしている。
・私は「あげまん」なのに、(夫が)全然出世しない。
などと罵声を浴びせます。
そして、DVする方が母親ですから、子どもまで味方につけて、夫をいじめます。
DV夫は妻を家に閉じ込めて、家の仕事ばかりさせることが多いです。
ですが逆DVの場合、夫に収入と地位を期待します。
夫に、男らしくしてほしいんです。
また、DV妻はDV夫よりも、夫に多くのことを求めます。
家事を夫に手伝わせて、「ブサイク。手際が悪い。」とののしり、
夫が家に仕事を持ち帰ると、「家族の時間を大切にしない。」と、パソコンを壊したり、
子どもの成績が悪いと、「あんたがバカだから子どももバカになった。」と、夫のせいにしたり。
けっこうむちゃくちゃです。
DV夫も理不尽この上ないのですが、ここまで何でもかんでも求めないような気がします。
DV夫が妻にするように、夫を教育するというより、自分の周りの環境が気に入らないといった感じです。
そしてDV妻は、「女性のほうが弱い」という社会通念を逆手に取って、武器を使います。
女性のほうが腕力が弱いから、武器くらい使わないと、つり合いが取れないという理屈です。
包丁やハサミ、千枚通しなどはよく使われるので、夫の被害のほうが大きかったりします。
被害夫のほうも、被害妻とは少し違います。
まず、逆DVはほとんど通報されることがありません。
周りの人も、夫の罵声だとDVを疑いますが、妻の罵声の方はそれほど大ごとだと思いません。
被害夫は、自分がDVを受けていることをわかってもらえないことが多く、我慢してしまいます。
そして、被害夫が被害妻と決定的に違うところは、DV被害者の心理でお話しした、「自分は被害者だからきれいで悪くない。」という感覚があまりないことです。
被害妻の場合だと、その優越感に浸ることでバランスを取ろうとするのですが、被害夫の方にはそれがありません。
逆に自分をおとしめて、情けなさにどっぷり浸ります。
どちらかと言うと、DV妻からでさえ、同情を引きたいという感じです。
ふたつのDVを比べてみると、
「夫からのDV」・DV夫は、妻を閉じ込めて、教育して洗脳する。
「妻からのDV」・DV妻は、収入など、自分の環境を快適にしてほしい。
「夫からのDV」・被害妻は、閉じ込められ、洗脳されて逃げることができない。
「妻からのDV」・被害夫は、いつでも逃げることができるのに逃げない。また、逃げるところがない。
「夫からのDV」・被害妻には、「優越感」を上げる心理が働いて、バランスを取ろうとする。
「妻からのDV」・被害夫は、バランスを取ろうとせず、あくまで被害者でいる。
と、こんな違いがあります。
被害夫に公的機関ができること
妻からのDVによる被害夫に対して、公的機関ができることは少ないのが現状です。
DV法的には、性別は関係なくどちらも法の適用を受けることができますが、男女では状況が違うことが多いです。
まず、DV相談は誰でも受けることができます。
どこに相談したらいい?に出てくる相談機関は、どこでもDV相談を受けることができます。
もし命の危険を感じたら警察です。
男性が助けを求める時は、警察が一番、話が速いのでおすすめです。
次に、公的なDV相談所ですが、
都道府県の配偶者暴力相談支援センター(婦人相談所)には、「婦人」相談所とか「女性」相談所とかの名前がついていますし、
市区郡町村の女性センターにも「女性」という文字が入っています。
「もしかして、男性は相談できないのかな?」と思われる方が多いでしょう。
でも大丈夫です。
これらはDVの相談所ですから、男性でも被害者として相談を受けることができます。
ただ、その時に気を付けてほしいことは、相談するとき、
「自分は被害者です。」って言ってくださいね。
DV相談所には、加害男性が逃げた女性を探して、怒鳴り込んでくることがありますし、たまに加害男性も、DVをやめたくて相談に来られる方がいらっしゃいます。
どちらにしろDV相談所は、暴力をふるう男性が来るのを常に警戒しています。
なので、最初から自分が被害者だということをはっきり言っておかないと、加害男性と間違われて、誤解を解くのに時間がかかることがあるかもしれません。
それに気をつけていただければ、相談は問題なく受けることができます。
相談まではいいのですがそれからが問題です。
だんだん難しくなってきます。
被害夫の相談で困るのは、公的なDVシェルターに逃がすことができないことです。
公的なDVシェルターは、女性専用の大きい施設がほとんどで、シェルターの中には相談員以外の男性が入ることはできません。
暴力をふるう男性から逃げてきている被害女性は、男性を見るだけでもフラッシュバックしてしまうことがあります。
それを防止するため、いくら被害を受けた男性でも入ることはできないんです。
(なので、余談ですが、DVシェルターの珍しい男性職員は、とっても優しい顔で、暴力とは程遠い性格の人でないとなれません。)
ですから男性が逃げる時は、マンション・アパート型のシェルターを持っているNPO法人などを探すしかありません。
なので、多少はお金を持っていないと、利用料がかかりますから入れないことがあります。
そして被害夫は仕事があることが多いですから、収入を理由に生活保護を断られてしまうことがあります。
それでは、着の身着のまま逃げられません。
また、仕事を辞めるわけにいかないので、通勤圏内でないと逃げることができないのも困ることです。
通勤圏内では妻に見つかる可能性が高いですし、出勤しますから、妻から完全に身を隠すことは難しくなります。
被害妻の場合、仕事をさせてもらえないことが多いので、夫から完全に身を隠すことができます。
ですが被害夫が公的な制度を使うとき、事情によりできないことがあります。
また、加害女性に保護命令が出た例も、私の勉強不足かもしれないですが、聞いたことがありません。
世間体なども相まって、相談に行けない確率が高い被害夫ですが、何もしないとそのままです。
何か少しでも変わることがあるかもしれませんから、相談にだけでも行ってほしいと思います。
被害夫のその後
妻からのDVの時、普通の相談の流れ・・・
という一連の流れが、いちいち引っかかります。
①・まず男性が相談できるかわからないので相談できない。
・どこへ相談にいっていいかわからない。
・相談員の方も公務員なので、前例がないことに弱い。
②・そもそも逃がすところが少ない。
・仕事があって遠くに逃げられない。
・逃げるとしても、お金を持っていないと逃げられない。
③・男性ということで、暴力被害が認定されにくい。
・被害夫が妻への保護命令を申請した前例がない。
④・離婚となると、子どもを父親が引き取りことがむずかしい。
など、困難が付きまといます。
別居するにしろ、調停を申込むにしろ、全部自分で調べて動かなければなりません。
前例がないことが多いので、何かしようとするごとに、周りの心無い言葉といった、二次被害も予想されます。
そして、一番つらいのは、お子さんを引き取るのがむずかしいことです。
一般的に、お子さんが小さいければ小さいほど、父親が引き取れる可能性が低くなります。
一緒に逃げられても、後で裁判を起こされて、母親が引き取ることもあります。
なので、お子さんのために離婚できず、しぶしぶ暴力を受け続けている被害夫もいらっしゃいます。
もし、警察に相談に行き、妻に注意してもらったとしても、暴力は再開する場合が多いです。
夫からでも妻からでも、DVは絶対にいったん離れた方がいいです。
困難は予想されますが、警察でも、配偶者暴力相談支援センター(婦人相談所)でも、「女性」相談所・「女性」センターと書いてあっても、相談をしてみてほしいと思います。
なにか動いてみてほしいです。
次のデートDVでは、夫婦でない関係のDVについて、お話しします。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。