被害者の心理
このページからは、被害者がおちいりがちな心理・特徴について、説明していきたいと思います。
相談を受けていると、DV被害者が同じような発言をすることがわかってきます。
相談に来てくださった方から見える心理、特徴をまとめてみました。
すると、9つのカテゴリーにだいたい集約されていきました。
その9つは、
「DV被害者の心理」
「DV被害者の特徴」
となりました。
例によって、全部書くと長くなるので、心理編と特徴編に分けてお伝えしていきます。
このページでは、DV被害者の多くに共通している「DV被害者の心理」についてお話しします。
①無気力で、考えることをやめている。
相談に来られる被害者の方々は、なんだかボーっとしています。
DVの期間が長い人ほど重症です。
話を始めるのに時間がかかったり、私が質問しても、答えづらそうです。
また、表情がないので、怒っているように見えることもあります。
彼女たちは無気力で、動作も全体的にゆっくりです。
自分からは何もしません。
相談室に通されて「どうぞ座ってください。」と言われるまで待っていますし、
私が具体的に質問するまで、DVのことを切り出せなかったり、
DV相談なのに、「私が悪いから。」と、話を進められなかったり、
これからどうしていくか、聞いても考えられなかったりします。
DV加害者の心理などにも書いていますが、被害女性は「思考停止」しています。
DVの期間が長いと、(いわゆるDV漬け)なおさらです。
妻は何を言っても受け入れてもらえず、夫の指示に従うだけ。
その指示に従っても、「できていない!」と怒られたりする。
夫のためにしたことでさえ、叱られる始末。
妻はどうしていいのかわかりません。
結婚して初めのころは、いろいろ考えて夫に尽くしていても、何かにつけ叱られます。
DVの定義と4つの暴力の種類のとおり、4種類の暴力を巧みに使われ、妻は消耗していきます。
だんだん、いろいろ考えることがムダに思えてきて、やめてしまいます。
あえて何もせず、夫に言われたことだけやるようになっていきます。
そしてその後も、夫に言われたことだけやっているのに、なぜか叱られます。
自分は一生懸命やっているのに、夫の気には召さないようです。
叱られて、叱られて、叱られすぎて、いちいち落ちこむのも疲れます。
叱る、夫の声が、遠くに聞こえるようになります。
もう、夫のためにいろいろ考えて、右往左往するのも疲れました。
DVが長くなると、何も考えず、何もしないようになってしまいます。
楽しいことでさえ、感じなくなっていきます。
②殴られるのは自分のせいだと思っている。
被害女性は、謙虚の天才です。
すぐ自分が悪いように言います。
長いDVの間に、そうなってしまうんです。
DV夫は、妻に無理なことばかり言って教育します。
妻がすることに、いちいち難くせをつけて困らせます。
妻が疲れた顔をしていると、「なにか文句があるのか。」
妻が働きたい言うと、「女は家で家事だけしていればいいんだ。」
そのくせ夫の給料が少ないと、「俺が気持ちよく働く気にならないのは、お前のせいだ。」
など、何でも妻のせいです。
妻はいわれのない批判に、最初は反論すると思います。
ですが、いちいち批判され、暴力をふるわれることが、くり返し続きます。
暴力が続いて、妻も疲れ、だんだん反論するのもめんどうになってきます。
自分の意見がまったく通らない生活に、妻は感情をなくし、無気力になっていきます。
そのうち夫は、「俺の気持ちが何でわからないんだ。」
とか、「お前のためにやっているんだ。」
などと、DVのことまで妻のせいにしてしまいます。
妻は、もう無気力状態ですし、反論できませんから、そのまま受け入れたほうが楽です。
何でも自分のせいにしておいた方が、その場が丸く収まります。
それをいいことに、DV夫は横暴さを増していきます。
妻はもっともっと、何でも妻のせいにします。
もうこうなれば、エスカレートして行くだけです。
妻の劣等感や罪悪感は、常にMAXです。
気づくと妻は、「何でも自分のせいにする天才」になってしまうんです。
③夫に依存している。
DV夫は、妻をコントロールし、「社会的隔離」します。
家族や友達との縁を切らせ(または切るようにしむけ)、外の情報を入れないようにします。
「話す人間は夫のみ」という状況を作っていきます。
そして、これまでの、
ときて、妻は無力感・劣等感・罪悪感を、持続的に育てています。
妻は、
・自分は何をやってもできる気がしない。
・自分は他人より劣っている。そんな自分が恥ずかしい。
・自分が何かすることで、人に迷惑をかけてしまう。
などと、ずっと思っています。
自分の、することなすことが信用できません。
自分が信用できないので、何をしても失敗すると思います。
失敗すると、すぐ暴力をふるわれてしまいます。
失敗をおそれた妻は、自分で何も決められなくなります。
そして妻の「話す人間は夫のみ」ですから、何でも夫に決めてもらうようになります。
依存するようになるんです。
妻はなんでも、それこそ料理の味付けまで夫に聞きます。
格好をつけたいDV夫は、妻にエラそうに回答します。
教育好きのDV夫は長い時間をかけて、この状況になるよう努力してきました。
これで、2人の需要と供給はバッチリ合うことになります。
「夫は暴力を使って、妻を教育する。」
「妻は夫に依存し、夫がいないと何もすることができない。」
これがよく言われる、「共依存」の始まりです。
④家族、とりわけ夫を守らなければならないと思っている。
前ページ、DV男に好かれる女性…②の「⑥正義感の強い女性。」でお話ししたとおり、DV被害者は、正義感の強い人が多いです。
そしてその正義感は、「こどものためにDV夫から離れよう。」の方向に行くものと、私たちは思います。
それがなぜか、「夫のDVを治してあげよう。」の方向に行ってしまうんです。
それにはもちろん、暴力が怖いからということもあります。
でもそれよりも、妻がDV夫の奴隷として教育されていることの方が厄介です。
それは夫から逃げようとするのではなく、寄りそう方向に行ってしまう原因になってしまうからです。
正義感の強い被害女性は、夫のおかしさに気づいたとき、夫をかばう方向に考えます。
「本当はとても優しい人。」とか、
「自分が完璧になったら治る。」だとか、
「子どもができたら治ってくれる。」だとか。
被害女性がおちいりやすい、この考え方は、残念ながら間違いです。
結局、「結婚前の優しい夫に戻る」ことや、「妻が完璧になる」ことや、「子どもができたら治る」ことはないからです。
妻は夫に期待するのですが、夫がその期待にこたえることはありません。
「暴力をふるう夫」が本当の姿で、結婚前の優しい夫は演技です。
ではなぜ妻は、命が危ないと思えるほどの暴力を受けても、夫をかばってしまうのでしょうか?
それは、夫の長きにわたる洗脳で、正義感の方向がゆがんでしまっているからなんです。
被害女性は、DV夫の洗脳により、「社会的隔離」されています。
外の情報は全く入ってきません。
そして夫婦は「共依存」におちいってしまっています。
夫婦(子どもがいれば家族)は、社会から孤立し、時間が止まった状態です。
そこで、DV夫は妻に教えます。
「外にいる奴は敵だ」と。
そして、妻の正義感の方向はゆがめられてしまいます。
「暴力をふるう夫」ではなく、「夫婦または家族を外敵から守る」という方向にです。
本当の敵は家の中にいるのに、何もしてこない外の世界の攻撃にそなえます。
「子どもを夫の暴力から守る。」のではなく、「通報により家族がバラバラにならないよう」に、そなえるんです。
これで妻は、外からの攻撃にそなえ、暴力のことを隠し通すようになります。
DVの発覚は遅れ、妻は命の危険にさらされるほどになってしまうんです。
⑤「被害者はきれいで悪くない。」という感覚がある。
この感覚のことはあまり語られませんが、とても重要な感覚です。
この感覚を、被害者は持っていたいです。
またこの感覚を、被害者は隠していたいです。
そしてこの感覚は、「共依存」の原動力になりますから、DVを複雑にします。
なので、この感覚のことをよくわかっていないと、夫婦の関係を見誤ることになります。
DV夫は4つの暴力を巧みに使い、妻の無力感・劣等感・罪悪感を育てます。
妻は、「何をやっても自分が悪い」し、「夫がいないと生きていけない」精神状態です。
そんな最悪の精神状態で長くいると、妻の気持ちに変化が出てきます。
人間、最悪のままでずっと生きていくことはできません。
もし最悪のままなら、本当に死にたくなってしまうでしょう。
でもそれでは正義感の強い妻は、家族や夫を守ることができません。
そこで妻は、自分の精神を安定させるため、新たな要素を追加します。
その追加の要素が、「私はきれいで悪くない。」という感覚なんです。
DV夫の教える世界は、「上下関係」に支配される「差別的な世界」です。
そもそも、夫は世界で最強、妻は奴隷という教えなわけです。
妻には、夫婦(または家族)の小さい世界しかありませんから、妻は「世界で最弱」です。
妻は劣等感のカタマリです。
その自分のままで、バランスを取って生きていくには、反対の感情である「優越感」が必要です。
悪の最強夫に、負けないことを考えなければなりません。
そこで用意された、「私はきれいで悪くない。」という感覚です。
それは絶対に夫に勝っています。
DV漬けの妻は、自分を天使のように感じています。
暴力をふるわれても、夫や子どもを優しく支え続ける自分。
この世の誰よりも、清れん潔白で、奉仕の人間性。
妻はその美しい自分に酔いしれることで、現実逃避しています。
妻にとって、それはそれは気持ちのいい感覚です。
劣等感に支配された妻にとっては、もう絶対手放したくないものです。
そして、暴力をふるわれている間も、この感覚の中に逃げ込んでいます。
暴力がひどくなると、自分のきれいな世界は美しさを増していきます。
そして・・・。
この感覚は、はっきり言ってこっぱずかしくて、人に話せません。
被害者がいかに世間知らずでも、これが恥ずかしいことぐらいわかります。
私も書いていて、赤面しています。
なので恥ずかしがり屋の被害者の口からは、あまり語られることがありません。
被害者とよほど仲良くなるか、カウンセラーでないと聞き出せません。
だから、厄介なんです。
この恥ずかしい感覚のおかげで、被害者は生きていられます。
死と近い生活をしている被害者があみ出した、秘密の知恵なんです。
そして、夫の暴力がひどいほど、この感覚は大きいです。
でも話すことはできないんです。
それが、DV発覚を遅らせる理由につながっていきます。
被害者自身もわかっているジレンマです。
複雑怪奇な被害者心理
被害者は疲れはて、あまり考えないようになっていきます。
でも、全く考えないでは生きていけません。
バランスを取ろうと、被害者心理は複雑にねじれてしまいます。
このページでは、被害者の5つの心理をお伝えしました。
この心理は、ひとつひとつが独立して存在するのではありません。
被害者の中に複雑にからみあって同居しています。
ひとりひとり想いが違いますから、それぞれもっといろいろな、重なり合う感情を持っています。
なので、言いにくいことがひとつあると、それとからみあった気持ちが全部言えなくなります。
被害者の多くは、やむをえない隠し事があります。
DVの年数や暴力のひどさによって、言えないことが多くなります。
ひどい人になると、相談に来ているのに「何も話せない。」と言う人もいます。
性的虐待が入るともっと深刻に、言いたいのに言えないことが多くなります。
被害者は相談員を困らせたくて言えないのではありません。
でも、被害者の情報が少ないと、サポートも不十分になってしまいます。
DV相談は、いつでもこのジレンマを抱えています。
次のDV被害者の特徴では、今回の続編をお伝えします。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。