難易度別の事例
この項目では、
難易度Ⅰ・・・夫が会社員(事務職)で、妻がパート職員の事例(子どもはいない)。
難易度Ⅱ・・・夫が会社員(営業)で、妻が主婦。子どもが0才2か月の事例。
難易度Ⅲ・・・夫が医師で、妻が主婦。子どもが小学校1年生の事例。
難易度Ⅳ・・・夫が無職で、妻は会社員。子どもが5才の事例。
難易度Ⅴ・・・夫が自営業で、妻は夫の会社の手伝い。子どもが中学校2年生と小学校6年生の事例。
難易度Ⅵ・・・夫も妻も公務員で、子どもが小学校4年生と2年生の事例。
の6つの事例についてお伝えしています。
今回は、
です。
※事例に登場される方には了解をもらっていますが、本人と特定されるような記述はしないです。
ひどい暴力の現場も書きませんし、どうやって逃げたかについても、加害者に情報を与えてしまうようになるので書きません。
ご了承いただけると幸いです。
難易度Ⅵの事例
この事例は、最初に謝っておきます。
すみません。
この事例の被害者、Kさん。実は逃がしていないのです。
ですが難易度は最高の事例なので、番外編のような形として見ていただけたらと思います。
Kさんは、夫も同じ自治体(自治体Aと呼びます。)の同僚で、どちらも公務員です。
そしてKさんは、自分の勤める自治体Aではなく、管轄外である、私の勤める自治体(自治体Bと呼びます。)に相談に来られました。
なんとKさんの夫は、自治体AのDV相談係の職員だったんです。
そりゃ、相談には行けないわけです。
Kさんには、ここ自治体Bは管轄外なので、できることが限られてくることをお伝えして相談を聞きます。
Kさんの夫は、私も圏内のDV相談係の会議などで会ったことがありますから、顔はわかります。
Kさんの夫は相談員ではないですが、相談の後、配偶者暴力相談支援センター(婦人相談所)に送る調整をしたり、母子生活支援施設の入所手続きをしたり、データをまとめたりする職員です。
圏内の会議でもよく発言するし、元気な感じの人です。
Kさんは、静かに話し始めます。
Kさんの夫は、Kさんよりも7歳年下で、とにかく目立ちたい人です。
職場では、周りの人にほめてほしくて仕事は一生懸命がんばるのですが、目立てなかったり、ほめてもらえないと、すねたりキレたりするそうです。
上司に贈り物をして機嫌を取り、反対に部下にはエラそうにします。
臨時職員が自分を立ててくれないのに腹を立て、なぐるという事件を起こしたこともあるそうです。
その時は、クビになりかけたのですが、贈り物をしていた上司に助けられ、事なきを得たようです。
家に帰っても、Kさんにほめてほしくて職場での武勇伝を大げさに話すようです。
そしてKさんにほめてもらえないと、すねたりキレたりします。
Kさんも家では1人で家事をしていますから、いつも夫のために100%反応できません。
公務員としての仕事もこなしながら、(夫の言う)女の仕事を全部やるのだけで、大変な苦労です。
その上、夫への対応も100%なんて、普通の人間にはできない技だと思うのですが、夫は許してくれないそうです。
夫も一応我慢しているらしいのですが、そのうち緊張期をへて爆発します。
「なんで俺を見てくれないんだ!」
などと言って、暴力をふるうそうです。
その間、子どもたちは、隣の部屋で収まるのを待っています。
緊張期には子どもたちにまで、「お父さんってすごいね!」と言わせるそうです。
子どもたちは、お母さんへのDVを見ているので、お父さんにはいつもビビッていて、お父さんの言う通りにするようです。
そのくせ、家族の態度がぎこちないようだと、また、すねたりキレたりします。
「もうどうしていいかわからない!」って感じなのですが、
虐待のサイクルがあるので、どう気をつけても暴力をふるわれて、Kさんは逃げようがないことだと悟りました。
最近は、できることだけするようにしているそうです。
話を聞いていると、
と疑ってしまいます。
それも、
と不思議に思いました。
でもKさんの話し方は控え目で、話を盛っているような態度ではありませんでした。
Kさんは将来何があったとしても、仕事は辞めないほうがいいので、逃げるとしても数日です。
Kさんも離婚はしたいけど逃げる気はありません。
私も、管轄外なので、今日は積極的には何もしないことにしました。
もしひどい暴力のときは、警察に行くしかないとアドバイスして、相談を終えました。
相談から2週間したころ、Kさんから電話がありました。
この前相談したことが、夫にバレたかもしれないとのこと。
Kさんと夫は自治体Aの職員ですが、うちの自治体Bに共通の友人がいるのだそうです。
その友人が夫に、「奥さん来てたよ~。」と、悪気なく言ったそうです。
Kさんは、DV相談の係とはまったく関係のない部署に勤めているので、何か用事があったとも言い訳できません。
と思いましたが、夫の方も、妻がDV相談に来たとまでは聞いていないようなので、ちょっと様子を見ることにしました。
その1週間後、Kさんの夫がうちの相談室にきました。
そして、私と会いたいと言っているとのこと。
私は顔面蒼白になりながらも、職場なので居留守を使うわけにもいかず、対応します。
とりあえず窓口で話をするのですが、こちらのビクビクを悟られないように話します。
Kさんの夫は、私にDV相談のときはどんな話をするのかとか、自治体Aの相談員さんに聞けばいいようなことばかり聞いてきます。
Kさんのことを探りに来ているのは間違いないです。
私は、こちらのことばかり聞かれないように、Kさんの夫に質問をしてみました。
職場の様子はどうか?と聞いてみました。
すると・・・。
よくしゃべる!よくしゃべる!
自治体Aの相談員さんの悪口から始まり、上司の悪口、部下の悪口です。
そして、私たちの自治体Bの職員のことを、取ってつけたようにほめます。
自分の自治体Aのことを落として、私たちの自治体Bのことを上げているつもりなのでしょう。
でもその悪口の内容が、ひどい・・・。
仕事ができないから始まり、性格が悪いとか、果てには顔が悪いと言いだしました。
部下が仕事ができないので、係の仕事全部をKさんの夫が1人でやっているそうです。
なので、周りの人には慕われているのだそうです。
上司に頼りにされているので、自治体Aの歴史上、1番の出世が約束されていると言います。
今は、妻と3階級離れているが、数年で追い越すことができる。
このままでは才能が知れ渡って、市長になってしまうので、大人しくしているとのこと。
何だか目まいがしてきました。
いやはや・・・。
本当にそんな子どもっぽい人がいるのかと、疑っていた私ですが、間違ってました。
Kさんはここにはいませんが、少しでも疑ってすみません。
そんな人、いました。
Kさんの夫はひとしきり悪口と自慢を話すと、満足したのか、Kさんのことは聞けないまま帰っていきました。
2、3日後、Kさんから電話があり、相談に行った疑惑のことは、もう言わなくなったのこと。
ひと安心しましたが、Kさんが自治体Bに来て相談を受けることは危険と思われました。
もう電話でくらいしか、話すことができなくなってしまいました。
それからは、Kさんから時々電話してもらうことになりました。
管轄外なので、私から自治体Aの保健師さんなどに、見守りを頼むわけにもいきません。
Kさんは私しか頼る人がいないのに、私にはほとんど何も積極的にできません。
つらい状況ですが、電話してもらって近況を聞いて、これからどうしていくかを決めていくことにしました。
ある時、今まで不思議に思っていた疑問を、Kさんに投げかけてみました。
と、聞いてみました。
Kさんは、自治体Aでもトップクラスのエリート職員で、夫とは3階級も上だそうです。
※詳しく言うと、課長補佐級(Kさん)→係長級→主任級→主事(夫)だそうです。
なのにKさんは、そのことも言わないし、大人しいし、とても聡明な感じです。
私はそんな素敵なKさんを見て、何であんな子どもっぽい人を選んだのか、ずっと不思議に思っていたのです。
Kさんが夫と出会ったのは、夫が18才で新採用の時。
Kさんはその係の先輩でした。
上司に取り入るのが上手い夫は、Kさんに上手に甘えてきたそうです。
最初は夫の取り入り方にとまどっていたKさんですが、ずっと続けられると慣れてきたそうです。
何だかそれが心地よくなっていき、恋愛に発展したようです。
Kさんはエリートクラスなのに、出世をひけらかしたりしません。
逆に自信がないというか、自己肯定感が低く、とても控え目です。
人格的にも素晴らしい人ですが、それが裏目に出ていたのだと思います。
夫には、妻がエリートということはもちろん、控え目なところもイライラの原因だったと思われます。
私は相談を聞きながら、ゆっくり離婚を勧めました。
Kさんも離婚はしたいのですが、夫の自治体Aでの立場を気にしているようでした。
暴力をふるわれてまで、夫のことを気づかう。
KさんはDV被害者の典型のような人です。
Kさんには子どもたちもいますから、夫のことより、自分と子どもを大事にするのが先決です。
Kさんは結局2年間という長い時間、調停で争いましたが、やっと離婚できました。
話が泥沼化して、Kさんが根負けした形です。
口の達者な夫が一筋縄では行かないのはわかっていましたが、結構な時間でした。
私は電話で話すくらいしかお手伝いができませんでした。
彼女が消耗していくのを見ているのはつらかったです。
この夫について
Kさんの夫は、今まで私が会ったDV夫の中でも、群を抜いてエキセントリックな人です。
普通、大人になる前に、
とか、
とか、誰もが学ぶようなことを学んでこなかったように見えます。
本当に子どもで、ほめてあげれば納得して大人しくなるという・・・。
DVも、言ってみれば、子どもが「ダダ」をこねている感じです。
そしてDV夫の例にたがわず、周りの評価は異常に気になります。
自分の思い通りにならないと、暴力を使ってまでも相手をねじ伏せようとします。
わかりやすいと言えば、わかりやすいですが、30才も過ぎてこれでは、治療も長くなりそうです。
Kさんが離婚を告げたときも、
「治療に行くから待ってほしい。」
と言って引き止めました。
張り切ってカウンセリングに行きましたが、数回でやめたそうです。
「自分の話を聞いてくれない。」
と言い訳をしたようですが、ポーズで行くと言ったのでしょう。
本気で行くと言ったとは考えられません。
そしてまたその後も、夫はすねてしまったようです。
夫としては、夢の計画を遂行中に、とん挫の危機です。
・上司に取り入って気に入られ、出世する。
・仕事のできる妻がいることで、同じく仕事ができるように見られる。
・自分は高卒なのに、大卒の妻を従えている。
・イクメンとして尊敬される。
・果てには周りに勧められ、市長に立候補する。
など、壮大な 夢だったと思います。
Kさんは控え目で、純粋な人なので、夫が心の奥で何を考えているのか、はっきりわかっていなかったと思います。
自分の心にないことが相手の心の中にあるとは、想像できないからです。
Kさんの夫に限らず、DV夫は他の人にはない大きなコンプレックスを抱えています。
自己肯定感が異常に低いです。
自分で自分をバカにしているのです。
でもバカを見せるのが恥ずかしいので、ほめてもらおうとしたり、プライドが高くなったりするんです。
自分で自分をいじめて、その低い気持ちを補充しようとしてほめてもらおうとする。
自分で低くして、他人にその補てんを期待するのです。
しかし自分以外の他人は、自分の思うようには動いてくれません。
それを無理やり動かそうとするので、暴力を使っていくわけです。
後日談
Kさんは、離婚できたころには疲れ果てていました。
でも仕事は待ってくれないので、力を振り絞って働きました。
夫とは離婚できたものの、そのまま同僚としての関係は続きます。
夫のおしゃべりで無神経な性格のために、彼女が何かと傷つくであろうことは、容易に想像できました。
それでも彼女は離婚や元夫については何もしゃべらず、黙々と仕事をしていたようです。
彼女の苦労や努力、我慢は計り知れないほどです。
賢明な彼女ですから、その態度がますます評価され、どんどん出世していきます。
元夫の方は、離婚後4年ほどで別の人と恋愛して再婚し、自治体Aを辞めました。
友人に誘われ、その友人と一緒に起業して、お店を出しました。
公務員より、取締役のほうが名前がいいし、バイタリティーがあるので合っていたのではないのでしょうか。
その後もお店は盛況なようです。
DVのほうは、自治体Aの相談員さんによると、再婚相手と、もめている様子はありませんでした。
自治体Aの相談員さんとは、Kさんの離婚が決まってから、やっとKさんについて話すことができました。
実は、Kさんのことは心配をしていたそうです。
一緒に働いていて、Kさんの元夫がDVっぽいのを、感じ取っていたといいます。
でも、あまり近くに敵がいるので、Kさんに会いに行って直接話をすることはできなかったそうです。
Kさんの元夫が異動してからは、少しずつ話すことができたようです。
自治体Aの話を聞いてみると、Kさんの元夫を嫌っている人は多かったようです。
彼が成功しているのを見て、Kさんの消耗している様子と比べて、元夫を批判する声をよく聞くそうです。
それに対してKさんは、元夫の成功について、喜んでいます。
Kさんといる時より、生き生きしている元夫を見て、別れてよかったと確信しているそうです。
Kさんは元夫の成功をを心から喜んでいるのですが、私は別の意味で、良かったと思っています。
もし、元夫が不幸になっていくと、Kさんを頼ってくるかもしれないからです。
それもKさんは、定期的に収入があるし、元夫にはなめられています。
格好のカモになってしまうことは、容易に想像できます。
このまま、お互いが安定して生活することが1番です。
事例のさいごに・・・
ここまで、私が相談を受けた事例を6つお読みいただきましたが、見返してみて思うことです。
みなさん、サイトにのせる了解をいただいた方たちですが、OKしてくれるだけあって、上手くいっている方たちばかりです。
思い返してみると、この例のように、結局逃がせられなかった人もいます。
また、逃がしたはいいけれど、やっぱり帰ってしまって、逆に私がおせっかい扱いされた例もあります。
この6つの事例だけ見ていると、なんだかすごいことをしてきたような錯覚を起こされるかもしれませんが、私はいっぱい失敗もしています。
私は、何でも逃がせられる、敏腕相談員ではありません。
何か期待してしまった方がおられたら、すみません。
でもこのサイトを読んでくださっているあなたが、今、DVで困っている状態だとしたら、
上手くいった事例を知ることは、とてもいいと思います。
最悪を想定して作戦を練ることは大事ですが、マイナス思考ではあまりいい結果に結びついていきません。
自信がない状態での再出発となると困りますから、なるべくプラスに考えていきましょう。
相談に行ってみてくださいね。
人生が変わるきっかけになると思います。
次のDV加害者の心理では、加害者は何を考えているのか、お話しします。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。