難易度別の事例
この項目では、
難易度Ⅰ・・・夫が会社員(事務職)で、妻がパート職員の事例(子どもはいない)。
難易度Ⅱ・・・夫が会社員(営業)で、妻が主婦。子どもが0才2か月の事例。
難易度Ⅲ・・・夫が医師で、妻が主婦。子どもが小学校1年生の事例。
難易度Ⅳ・・・夫が無職で、妻は会社員。子どもが5才の事例。
難易度Ⅴ・・・夫が自営業で、妻は夫の会社の手伝い。子どもが中学校2年生と小学校6年生の事例。
難易度Ⅵ・・・夫も妻も公務員で、子どもが小学校4年生と2年生の事例。
の6つの事例についてお伝えしています。
今回は、
です。
※事例に登場される方には了解をもらっていますが、本人と特定されるような記述はしないです。
ひどい暴力の現場も書きませんし、どうやって逃げたかについても、加害者に情報を与えてしまうようになるので書きません。
ご了承いただけると幸いです。
難易度Ⅳの事例
この事例の被害者Yさんは、中小企業で事務をしている正社員です。
Yさんは、仕事中に時間休をもらって来られました。
夫から会社に電話がかかってきたときなどのアリバイ対策までしてきたので、とても賢い人です。
顔に傷はありませんが、腕などには傷や傷跡がありました。
古い傷跡もあるので、DVの歴史がうかがえます。
彼女の表情はずっと暗くて、あまり身なりにも気を使わない感じです。
あるいは、気を使えない心理状態なのかもしれません。
夫は無職なので、会社の近くで監視していることも考えられ、1回、会社に帰ってから家路につくとのことでした。
時間がないので、単刀直入に話を聞いていきます。
Yさんは6年前に合コンで知り合いました。
彼はその当時、大会社に営業で勤めていて、けっこうお給料もあったそうです。
最初のうちは、彼のことを明るくて賢く、頼りがいのある人だと思っていたようです。
彼はバツイチでしたが、子どもができたので結婚することにしました。
Yさんは結婚して、よく夫の話のつじつまが合わないことに気づきました。
夫はなんでも自分に都合がいいように解釈したり、自分を大きく見せるため、ウソをつく人だったのです。
少しがっかりしたYさんですが、結婚してしまったし、子どもも産まれるので、様子を見ることにしました。
夫はいつも人と比較してグチを言い、上から目線でものを言うタイプです。
「あいつは○○ができないから俺より下。」だの、
「あいつは上司に嫌われるアホ。」
などと、Yさんに自慢?グチ?のようなことをずっと言います。
DV夫のほとんどはそうですが、妻のYさんに対しても、上から目線で教育する態度です。
最初のころは暴力はふるわず、妊婦のYさんに、自分の仕事での営業技術のことについて、
「お前にはわからないだろ?俺が教えてやるから。」
と言って、夫の仕事のことを意味なく教えたり、昇進試験の際には、
「こんな難しい問題、お前に解けるか?」
と言って、一緒に問題を解かせたりします。
とにかく知っていることを、Yさんに全く関係なくても、先生ぶって教えるそうです。
私はここまで聞いて、
子どもが産まれて、妻が子どもの世話ばかりするようになり、夫はやきもちを焼いて暴力をふるいだしたそうです。
夫はすねて、
「俺のことなんてどうでもいいんだろ!」
などと言って怒り出し、子どもを抱いたり、かわいがったりしません。
だんだんエスカレートして、
「俺のことを何でわかってくれないんだ!」
と妻の首を絞めたり、果てにはリストカットして妻に見せて、
「これから死んでやる!」
などと脅したりするのです。
夫は、誰も自分のことをわかってくれないと思い込み、引きこもるようになって仕事を休みがちになりました。
うつ病と診断され、何回か病気休暇でまとまって休みました。
さすがの大会社でも、年間でほとんど出勤していないことを許してはくれず、クビになったそうです。
それから夫は、うつ病の治療をしながら家にいて、金銭面では、夫の両親が援助をしてくれていました。
子どもが3歳になり、暴力がひどくなって、Yさんは夫に別れを切り出しますが、夫には通じません。
夫の言い分は、
「うつ病の夫を放っておいて、ひどい妻だ!治すには家族の協力が必要!」
というものですが、彼女が、
「暴力をふるうから離れたい。」
と言っても、夫は謝って、
「うつ病が治ったら、もう暴力はふるわない。お前がいないなら死ぬしかない。」
と言ってリストカットするという、悪循環におちいってしまいました。
夫婦は、
①Yさんも夫が自分のせいで死を選んだりしたらたまらないので、また我慢する。
②夫は暴力をふるう。
③Yさんは別れを切り出す。
④夫は「死んでやる!」とYさんを脅す。
⑤⇒①に戻る。
を繰り返していました。
さらに1年ほどたったころ、今度は夫の両親まで話に入ってきて、
「うつ病の息子を放って出ていくなんてひどすぎる!」
「出ていくのなら、今まで援助した分を返せ!」
などと言われ、行き場がなくなってしまいました。
Yさんは実家とは離れていましたし、両親に甘えた経験もなく、折り合いが悪いと思っていましたから、何も言っていませんでした。
私は、もう彼女を逃がすしかないと判断して、逃げる作戦を立てることにしました。
夫のうつが治るまでなんて、Yさんの命のほうが大切です。
夫の怖さは、身体的暴力に加え、日常的に恐喝されるという、Yさんにとっては1秒も気が抜けない状態です。
Yさんには、
などを話し、逃げる準備を始めて、時々連絡してもらうようにしました。
Yさんは、ご両親や職場に話すことを戸惑っていましたが、ちょっと逃げても夫はアメーバのようにまとわり付いて来るタイプなので、遠くに逃げる必要がありました。
Yさんは、ご両親に今までのことを全部話したそうです。
ご両親は意外にも、
「もうそんな所にわが子を置いておけない。すぐ帰ってきなさい。」
と言ってくださったそうです。
折り合いが悪いといってもやはり、親ですから、わが子は心配なものです。
彼女は正社員だったので、辞めるまでに時間がかかってしまいましたが、
相談から1か月後に、配偶者暴力相談支援センター(婦人相談所)のシェルターに逃がしました。
すぐ実家には帰れるようでしたが、保護命令のことなど、いったん公的シェルターに逃げておいた方が、事がスムーズに運びます。
彼女は、配偶者暴力相談支援センター(婦人相談所)のシェルターに1週間だけ居て、実家に帰りました。
この夫について
この夫は、「うつ病」+「DV」です。
うつとDVは、共通する心理が隠れていることも多いです。
(※うつの人に暴力をふるう人が多いということではありません。)
うつ病がある夫は、身体的暴力をふるわない人も多いですが、ひとたび身体的暴力をふるってしまうと深みに落ちるパターンです。
身体的暴力をふるったという事実が罪悪感を深め、うつ病の方も深刻になっていきます。
よくあるパターンで、よくある展開です。
妻に「死ぬ」と言って脅してまで気を引こうとするのですが、逆効果になります。
一般的なDVのみの場合は、ハネムーン期の演出が上手かったりして、お互いが依存してしまう、「共依存」におちいりやすいです。
反対に、夫がうつ病DVの場合は、夫だけが妻に対して気を引こうとするので、「一方通行の依存」です。
妻が洗脳されているわけではないので、暴力をふるわれると、当然逃げようとします。
そこを強引に引き戻そうとするので、夫婦の溝は深まるばかりです。
妻は「恐怖」によってのみ、夫との関係を続けているという状態です。
この時一番厄介なのは、夫がDVの原因を、うつ病のせいにすることです。
うつ病を治せばDVも治ると信じていて、医師にすぐ治すように迫ったり、暴力沙汰になったりすることもあります。
妻に逃げられ、依存できなくなった夫は、今度は医師に依存するというわけです。
医師も診療してお薬は出しますが、DV夫の人生まで背負わされているわけではないので、いい迷惑だと思います。
(医師はいい迷惑だなんて言いません。私の勝手な推測です。)
うつ病DV夫は特に、逃げた妻にもしつこくメールしたり、復縁を迫ったりするので、保護命令の期間が終わった後も気が抜けません。
そのような意味でも、この場合は遠くに逃げることをおすすめします。
後日談
Yさんは、ご両親が味方となり、夫と夫の両親との対応にも手を貸してくださいました。
夫の方は、ガックリして交渉には参加できない状態です。
Yさんは怖くて夫の両親とも会えない状態だったので、両親同士が離婚調整することになりました。
最初は夫の両親が、息子かわいさにYさんを批判するのみで、ほとんど話し合いになりませんでしたが、
回数を重ねるごとに、夫の両親もだんだん事態が飲み込めてきて、交渉に応じるようになったそうです。
結局、慰謝料は相場くらいになりました。
養育費の方は、子どもさんがお父さんを怖がっているので会うことができないということで、養育費なしとしたそうです。
養育費は、父親が子どもと会うことも大切な要件ですが、それだけではないと思います。
でもこの場合、夫に職がなく、払える状態でないので仕方のないことだったのでしょう。
Yさんは、実家で2か月ほど療養した後、地元の企業に就職しました。
2か月で完全に後遺症がなくなったわけではなく、ちょっとした拍子に元夫の言動がフラッシュバックするそうです。
でも、元夫が療養だと言って働かなかったのを見ているので、違うことをしようと思い、無理やりにでも働き始めました。
彼女は、働いている方が、DVのこととかを考えない時間ができて、楽になったと言います。
子どもさんも父親のDVを見ているので感情を出すのが苦手でしたが、保育園を転園して、ゆっくりと変わり始めました。
自分のしたいことを言ったり、楽しそうにしたり、怒ったりできるようになったようです。
お友達と遊ぶことができるし、「おばあちゃんちの方がいい!」と言っているそうです。
Yさんも子どもさんも、これから少なからず後遺症との戦いがあると思います。
今まで夫に植え付けられた間違った常識を、直していく作業が続きます。
それには、いろいろな人と話して、価値観を変えていく必要があります。
ゆっくり、焦らず、やっていってほしいです。
次の事例Ⅴ…酒乱の夫では、夫が自営業で、妻は夫の会社の手伝い。子どもが中学校2年生と小学校6年生の事例をお話しします。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。