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大丈夫。自由は怖くない

難易度別の事例

この項目では、
難易度Ⅰ・・・夫が会社員(事務職)で、妻がパート職員の事例(子どもはいない)。
難易度Ⅱ・・・夫が会社員(営業)で、妻が主婦。子どもが0才2か月の事例。
難易度Ⅲ・・・夫が医師で、妻が主婦。子どもが小学校1年生の事例。
難易度Ⅳ・・・夫が無職で、妻は会社員。子どもが5才の事例。
難易度Ⅴ・・・夫が自営業で、妻は夫の会社の手伝い。子どもが中学校2年生と小学校6年生の事例。
難易度Ⅵ・・・夫も妻も公務員で、子どもが小学校4年生と2年生の事例。
の6つの事例についてお伝えしています。

今回は、難易度Ⅲ・・・夫が医師で、妻が主婦。子どもが小学校1年生の事例です。

※事例に登場される方には了解をもらっていますが、本人と特定されるような記述はしないです。
ひどい暴力の現場も書きませんし、どうやって逃げたかについても、加害者に情報を与えてしまうようになるので書きません。
ご了承いただけると幸いです。

難易度Ⅲの事例

【夫が医師で、妻が主婦。子どもが小学校1年生の事例】

意外と思われるかもしれませんが、DV夫には医師や弁護士など、高学歴で社会的地位の高い人もいます。
この事例の被害者、Sさんの夫は外科医で、地方都市の大病院の院長です。
社会的地位が高い夫の場合、暴力はふるわず、妻の荒さがしをして説教をする、「精神的DV(モラハラ)」のみこともあります。

Sさんの夫は「身体的DV」もする人でした。
Sさんは、夫より年が10歳以上若く、とても美しい女性です。
夫は妻に、
「俺は、医学的にどこまでやっていいか解っているのだから、心配しなくていい。」
と、訳のわからないルールで暴力をふるっていました。

夫はSさんに金銭管理や、家事のこと、私立幼稚園から続くママ友との付き合い方など、生活全般にわたってケチをつけ、いちいち妻を叱っていました。
暴力をふるうのは、彼女が反論した時だけで、夫は、
「自分の暴力は、世間で言われているようなDVというものとは違う。」
と言っていたそうです。
確かにDV夫によく見られる、「虐待のサイクル」を使って妻を洗脳するという感じではありませんでした。
ですが、夫は完全に妻をバカにして教育する感じで、暴力も定期的に行われていました。
暴力の内容も、あざが残るほど殴られたり、髪の毛を抜かれるようなこともあったようで、決して、
「口げんかのひょうしに殴った。」
では済まされないものでした。

彼女は、夫の弁護士に紹介してもらって、寺院が集まって出資しているNPO法人のシェルターに、夏休み、子どもさんと一緒に逃げました。
このシェルターは、NPO法人に出資している寺院にちょっとのあいだ、居させてもらう形をとっています。
このNPO法人は、DV以外の人も受け入れていて、例えば引きこもりの人が更生するためだったり、虐待された子どもを里親として預かっていたりと、色々な理由で家にいられない人たちが来るシェルターです。
外部の人とも連絡できるので、夫にも、逃げてから連絡し、
「1週間ほど主婦業をお休みしたい。」
と告げました。
彼女は夫と離婚する気はなく、少し夫から離れたいという気持ちで逃げたのです。

夫は最初、
「主婦業を休む意味がわからない。」
と言って早く帰るように言いましたが、妻は何時間も泣いて話し、夫はしぶしぶ
「一泊だけなら許す。」
と言ったそうです。
夫は、本当に妻に逃げられる理由がわからないらしく、妻が暴力を嫌がっていることも初めて知ったそうです。

Sさんはシェルターに逃げた次の日、これからどうしたらいいのかと、相談に来られました。
彼女は離婚したくないということだったので、その方向で話をしました。
離婚しないのなら、暴力を抑えてもらうしかありません。
私はSさんの現状を聞き、DVについて説明し、SさんはDVの渦中にあると話しました。
そして、夫に暴力をふるわれるのが嫌だと伝え、自分の態度をしっかりとあらわすよう、アドバイスしました。
妻が暴力を嫌がっていることを初めて知ったのなら、まだ引き返すチャンスはあるかもしれないと思ったのです。

ですが、彼女の話をずっと聞いていると、離婚したくない理由に疑問を感じてきました。
彼女の頭の中には、
・離婚すると、子どもを夫に取られてしまう。
・夫には強い弁護士がついているので、慰謝料ももらえないだろう。
・子どもと自分の生活レベルを下げたくない。
・自分が子どもを引き取るのであれば、せっかく入れた私立小学校を辞めさせることになる。

という気持ちが渦巻いているとのことでした。

私は彼女の意向もあるので、離婚することを積極的には勧めませんでした。
彼女には、
・子どもにDVを見せることも虐待であること。
・自分を大事にしていないと、誰も大事にできないこと。

などを伝えて、相談を終えました。

彼女は家に戻りましたが、あれから1か月半たった頃、また相談におとずれました。
家に戻って最初は、夫も話し合いを持ち、
「もう暴力はふるわない。」
と誓ったそうですが、このところ何回か殴られることがあったそうなのです。
彼女は私に、夫に会って説得してくれと頼みました。
私は、会って話すのはかまわないが、はたして私と話したところで、夫の暴力は止むだろうか?と聞いてみました。
彼女は、
「止むと思う。」
と言いましたが、夫が私と会ってくれる訳もなく・・・。
私はすぐ逃げるのを勧めようかとも考えましたが、彼女の受け身なところを直さないと、その後の生活をやっていけないと思い、また来てほしいと伝えました。

彼女はそれから何回も相談に来て、私は彼女のこれからの人生の構想を聞き、それを実現するためにどうしていけばいいのかを話し合いました。
何通りも人生をシュミレーションしてみました。
やりたいことが、可能か・不可能か、自分がやらなきゃならないことは何かなど、書き出していきます。
彼女は今まで人に気を使ってばかりで生きてきたので、自分を主張することなんてできませんでした。
最初は自分が何をしたいかも言えませんでしたが、「自分が何を楽しいと思うか?」から始めていきました。
客観的に自分の人生について考えるなんて、普段しないので、難しい作業だったと思います。
(余談ですが、DV夫はとても主観的な人間なので、自分と相手のことを平等に、客観的に考えることはとても難しいです。)

彼女はだんだん、人にしてもらうと、自分の思い通りに進まないことに気づいてきました。
自分の思い通りにならないと、不満が溜まります。
でも、自分でしたことなら納得できるし、失敗しても次へのステップに生かしていけることもわかりました。
「受け身でグチの多い人生」と、「積極的に自分で決めて、成長していく人生」の違いを理解しました。
何でも人に頼るのではなく、自分の人生は自分で作るものだと悟ったんです。
気づくと半年くらいたっていましたが、彼女は大きな成長を遂げたと思います。
その間も、夫の暴力は止んでいませんが、だんだん少なくなっていきました。
彼女が成長していったので、夫の対処法もわかってきたのでしょう。

皮肉なことに、彼女が逃げると決めた頃は、もうほとんど暴力はなくなっていました。
でも彼女は、生活レベルを下げたとしても、子どもと幸せになるため、離婚することにしました。
彼女は、
「もう子どもに暴力をふるうような父親を見せたくない。」
と言っていました。
夫よりはるかに年下の彼女ですが、精神的にはもう夫を超えてしまったようです。

私は彼女を、弁護士事務所が運営しているシェルターに逃がしました。
もう命の危険がないので、公的なシェルターには逃げられないという理由もありますが、
夫には強い弁護士がついているので望みは薄いのですが、裁判沙汰になったときには相談がスムーズだからです。

この夫について

この夫は、高学歴で高収入、地位も高い、誰もがうらやむような人です。
このタイプのDV夫は、自分ができるだけあって、妻の失敗などをすごく叱ります。
妻にできないことがあると、できるようになるまで努力させます。
暴力を使って妻を成長させようとするのですが、うまくできないので、エスカレートしていくことになります。

仕事でも威張っていい立場にありますし、子どものころからずっと褒められてきた人生です。
「褒められることだけが素晴らしい。」という価値観なので、妻もそうなってほしいと望みます。
妻の失敗を、笑って許せるような度量は持っていません。
ましてや、その失敗も夫が勝手に決めた失敗です。
そうなると、妻は失敗するのを恐れて、何もできなくなってしまいます。
そして、深みにはまっていくという訳です。

後日談

Sさんは、NPOのシェルターに1か月ほど暮らして、そのあと実家に帰りました。
周りの人からは、「あんな素晴らしい人と離婚するなんてもったいない。」と言われたようです。
でも彼女は、夫の悪口は言わなかったそうです。
大人な対応です。

その後、夫との裁判で、慰謝料は少額しかありませんでしたが、彼女は親権と、高額な養育費を手にすることができました。
子どもさんは、彼女の実家の地元公立小学校に転校しましたが、変なプレッシャーがなくなり、前より元気に通っているそうです。
彼女も、夫やママ友との複雑な付き合いから解放され、アルバイトしながら、子育てを楽しんでいます。

DVの後遺症には、わかりにくいものもあります。
Sさんは、ビクビクして自分で何も決められなくなっていました。
DV被害者で、「ただの大人しい人」に見えて、心の中には深い闇を抱えていることがあります。
Sさんのように上手くいくことばかりではないので、DVは解決後も気を配っていきたいところです。

次の事例Ⅳ…うつ病+DVの夫では、夫が無職で、妻は会社員。子どもが5才の事例についてお話しします。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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