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大丈夫。自由は怖くない

難易度別の事例

このページからは、私がいままで見てきた例をお話ししたいと思います。
難易度ⅠからⅥまでの事例を挙げていきますが、数が上がるごとに難易度も高くなっていきます。

難易度別の事例は、
難易度Ⅰ・・・夫が会社員(事務職)で、妻がパート職員の事例(子どもはいない)。
難易度Ⅱ・・・夫が会社員(営業)で、妻が主婦。子どもが0才2か月の事例。
難易度Ⅲ・・・夫が医師で、妻が主婦。子どもが小学校1年生の事例。
難易度Ⅳ・・・夫が無職で、妻は会社員。子どもが5才の事例。
難易度Ⅴ・・・夫が自営業で、妻は夫の会社の手伝い。子どもが中学校2年生と小学校6年生の事例。
難易度Ⅵ・・・夫も妻も公務員で、子どもが小学校4年生と2年生の事例。
の6つです。

※事例に登場される方には了解をもらっていますが、本人と特定されるような記述はしないです。
ひどい暴力の現場も書きませんし、どうやって逃げたかについても、加害者に情報を与えてしまうようになるので書きません。
ご了承いただけると幸いです。

難易度Ⅰの事例

【夫が会社員(事務職)で、妻がパート職員の事例(子どもはいない)】

妻(Nさん)は結婚3年目で相談に来られました。

Nさんは真夏で暑い日なのに、長袖のシャツを着ていました。
顔に傷は見当たりませんでした。
少しやつれている感じはありましたが、時々見せる笑顔が素敵な女性です。

Nさんを相談室に通し、ゆっくりと話をしていきます。

夫の暴力は結婚して1年ほどで始まりました。
Nさんは結婚する前から、夫がキレやすいことをうすうすは感じてはいましたが、「男らしくてステキ」と思っていました。
結婚してから夫は、料理や掃除の出来に細かい文句を言うようになります。
彼女は、
「少し細かいな。」
と思っていましたが、夫は、
「はやくお前に一人前の主婦になってほしい。頑張れ!」
と優しく言います。
彼女は、主婦力を上げようと、毎日家事を頑張っていたそうです。

少しずつ暴力が始まっていくのですが、夫は時々プレゼントを買ってきてくれます。
それも、Nさんの家事が楽になるようなグッズです。
Nさんは、
「夫は私のことを想ってくれている。家事を頑張って、早く夫に認められるようになろう!」
と、いちだんと頑張ります。

その後も、だんだん暴力がひどくなっていくのですが、夫は暴力のあと、彼女を抱きしめ、
「俺もお前がかわいいから言っているんだぞ。」
と優しく言います。
彼女もそこで思いとどまってしまいます。
「自分も完璧じゃないから、まだ迷惑をかけている。」
と思い、誰にも相談しませんでした。

結婚2年で体にあざがあることが多くなり、2年半で顔もはつられるようになります。
夫は「洗濯物の干し方が悪い」だの、「野菜炒めの塩加減が悪い」などと言って、暴力をふるいました。

3年が経ったころ、Nさんはパートを休んで相談にきました。
不妊治療を始めようと、訪れた産婦人科でDVのことを医師に聞かれたそうです。

Nさんは初め、医師にDVと気づかれたことが不思議で、
「私、何かDVされているようなそぶりしてますか?」
と聞いたり、
「夫は優しく、自分の欠点を直そうとしているから、別れたくない。」
と言っていました。
まったく逃げようなんて思っていなかったでしょう。

私は、何回かの相談を経て、
・暴力は犯罪であること。
・Nさんの欠点を直すのに、暴力は必要ではないこと。
・そもそもNさんの欠点と言っていることは欠点ではなく、直す必要がないこと。
・夫の欠点の話が、全く出てこないこと。
など、夫の矛盾点について伝えていきました。
Nさんもだんだん、自分がDVの渦中にあることに気づいてきました。

そして、また暴力をふられました。
「シチューのコンソメの量が少ない。」
という理由です。
彼女は、シチューが手にかかって、少しやけどを負ってしまいました。

次の日、Nさんは相談に来られました。
顔にも、ばんそうこうをしています。
そして、
「夫は私のケガをかわいそうとも思わないみたい。もう別れたいです。」
と言いました。
夫は前ほど、DVの後、Nさんを気づかわなくなってきたそうです。

彼女はもうこの生活を終わりにしたいと望んでいます。
私たち相談員は、離婚するにあたって、逃げるか逃げないか、どういう方法で離婚に持っていくかを考えていきます。
この夫は、あまり束縛する方でなかったし、彼女はもう実家に帰りたいということでした。

話し合いの末、逃げるか否かについては、今すぐ生死に関わるということでないので、公的シェルターに一時保護はしませんでした。
そして、彼女の実家の近くにあって、弁護士事務所が運営している、NPO法人のシェルターに逃がすことにしました。
私は、家に荷物を取りに帰ったNさんに付き添いましたが、リビングにはシチューが散乱し、割れた食器などが転がっていて、昨日の様子がかいま見えるようでした。

彼女は実家のお母さんに連絡し、逃げることを伝えました。
ご両親は、彼女が夫に暴力をふるわれていることを知らず、びっくりしていました。
話が進み、ご両親は、「すぐに帰っておいで。」と言ってくださいました。
彼女のお父さんは、肉体労働のお仕事で、腕っぷしが強いタイプの方でした。
対する夫は体の細い事務職なので、乗り込んでいっても大丈夫そうでしたが、一応警察にも連絡して、実家周りの警備もお願いしました。

彼女は、NPOのシェルターに1か月ほどいて、実家に帰りました。
夫は離婚にも素直に応じ、協議離婚できました。
NPOの弁護士の協力もあり、交渉が上手くいき、慰謝料も支払われました。
夫は、暴力をふるっていたという事実が自分の周りの人や会社に知られるのが怖くて、すぐ離婚に応じたそうです。
Nさんが逃げたことが会社にバレたら、自分がクビになるのではないかとずっとおびえていたそうです。

この夫について

DVで離婚する場合、夫が離婚に承諾しないことはよくあります。
調停したり、裁判になったりして長期間争うこともあります。
長期化すると、妻の方が疲れてきて、あきらめてしまうようなこともあります。
この夫婦はすぐ離婚となったので、珍しい例だと思います。

この夫は会社では上司にペコペコして、いつも気を使っているような男性です。
妻にだけは強気で、いばって妻をこき使うようなタイプです。
通常、妻が逃げただけでは、会社をクビになることはありません。
(日ごろから会社と折り合いが悪い人なら、DVがバレてクビのきっかけになることはあるかもしれませんが。)
ですが、それを恐れてビクビクするような夫です。

私もこの夫と会って話をしましたが、「まさかこの人が暴力を?」と思いました。
細身でかっこよく、まじめで大人しい感じの男性です。
この人には何のコンプレックスがあるのだろうと考えたりしました。

DV夫の心の中には、偏見、差別、劣等感が渦巻いているものです。
この夫は、周りに暴力的な人もいないし、暴力とは無縁の世界で育ったとのこと。
なのになぜ?

よくよく話を聞いてみると、自分の学歴のことがコンプレックスの1つのようでした。
話の中に「頭のいい人たちは・・・。」というフレーズがよく出てきます。
高卒の夫は、大卒の妻に対して、気負いがあったようです。
夫は、頭のいい妻になめられないように、強気にふるまっていました。
それがエスカレートして、暴力に発展していったのでしょう。

暴力の理由は、学歴のことだけではなく、2人のいろいろなことが要因になっているとは思います。
ですが、学歴のことについては、
・高卒や、中卒の人だって活躍している人はたくさんいること。
・学歴と人間的な成長とは、何の関係もないこと。
・高卒を差別しているのは自分自身で、周りの人はそんなに気にしていないこと。
・どうしても高卒が嫌なら、今からでも大学に行けること。
・高学歴なのに、仕事ができないと思われている人は多いこと。

などをお話ししました。

夫は、「ありがとうございます。」と言って帰りましたが、
カウンセラーでもない私と何時間か話したからと言って、彼のDVがすぐ治るなんてありえません。
長年でつちかわれたコンプレックスは、自分が抜け出そうとして、そうとう努力しない限り、捨てることはできません。

後日談

Nさんは、離婚当初は男性恐怖症となり、半年ほどカウンセリングを受けました。
カウンセラーとの相性がよかったことや、彼女が元々ポジティブ思考だったこともあり、みるみる元気になっていきました。
実家の近くの企業に就職し、フルタイムで働き始めることができました。
そして2年後には、別の男性と結婚しました。
今度の夫は、大卒でぽっちゃりしていて、とても優しい男性です。
元夫とは全く違う性格で、元夫のことや暴力のことを思い出すことは全くないそうです。

もう私と会うこともなさそうですね。

DV夫と別れた妻が別の男性と再婚したときは、本人も、周りの人も、しばらく注意しておかなければなりません。
夫の発した言葉やしぐさから、元夫のことがフラッシュバックのように思い出されることがあるからです。
夫に、「あなたの言葉から元夫が思い出される。」なんて言えませんから、ひとりで悩んでしまったり、時には発病することもあります。
夫婦がギクシャクして、不仲の原因になったりもします。
DVの後遺症は怖いです。

次の事例Ⅱ…家事にこだわる夫では、夫が会社員(営業)で、妻が主婦。子どもが0才2か月の事例についてお話しします。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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