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大丈夫。自由は怖くない

二次被害とは?

あなたは、身も心も傷つき、夫からはコントロールされ、思うように外出もできません。
夫はいつも、あなたのすることなすことすべてに文句を言います。
自分にも悪いところがあって、直せるものなら言ってもらいたい。
夫の言うとおりにしても、けなされるばかり。
子どものためにも、自分が我慢すればひもじい思いをさせなくて済む。
他の夫婦にはこんなことは起こっていないのだろうか?
などと考えていると思います。

夫の目も気になりますが、もう洗脳されているあなたにとっては、他人全部が信用できなくなっていることでしょう。
相談に行ったって何が変わるの?
相談したって、私たち家族のことなんてわかるわけないし、話せない。

そんな状態のあなたが、このままでは自分や子どもの命に関わると感じ、やっと相談を決意したとします。
支援センターで相談室に通され、決死の想いで話します。

そこで、言いにくいことを勇気を出してしゃべっているのに、相手に解ってもらえないとしたら?

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支援者の理解のない言葉に、さらに被害者が傷ついてしまうことを「二次被害」と言います。
DV自体が人権侵害なのに、さらに赤の他人によって、人権侵害されるわけです。

今まで、「夫婦だから」「家族だから」と、夫からの暴力・屈辱的な言動に甘んじてきた妻は、初めてDVを他人に話そうと決意して相談にきています。
自尊心を無くし、「夫のルール」で生きている妻にとって、「外の世界」は久しぶりですし、怖いです。
「夫のルール」は、「外の世界のルール」とは全く違うものですから、妻は「外の世界のルール」に合わせて上手く話すことができません。
それが、今日会ったばかりの、助けてくれるかもしれないと期待を込めて会った人に想いを伝えられず、それどころかまた屈辱的な思いをしなければならないのです。

今は、配偶者暴力支援センター、女性センターなど多くの施設・相談窓口ができたので、専門的な職員がおり、二次被害を受けることは少なくなってきました。
ですが、少なくなってきたとはいえ、まだゼロにすることはできていない問題です。
支援者に落ち度があれば当然その支援者が悪いですが、支援者に悪気がなくても仕方ない状況で起こってしまうこともあります。

二次被害の例

私がこれまで見てきた例を3つ挙げてみます。

1、配偶者暴力相談支援センターでの例

Aさんが、配偶者暴力相談支援センターに助けを求め、相談した時のことです。
その時の相談員Bは、「あなたみたいな方はよく来られます。」とか「あなたのような人は、この前も〇〇〇したので良かったですよ。」とか、しきりと言う人だったそうです。
Aさんは、それをあまり良くは思っていなかったのですが、言うほどのことでもないので、黙っていました。
Aさんはその後シェルターに入り、相談員BがAさんの担当となりました。
相談員Bは、「あなたのような場合こうした方がいい。」などと、Aさんの性格を勝手に判断して、相談員Bの判断を押し付けてくるようになりました。

Aさんもそうなのですが、DV被害者の多くは、夫に意見を言うことを許されていないので、自分の思いを上手に伝えることができなかったり、自分で決定することができなくなったりします。
Aさんは、本当はそこに住みたくないのに、アパートを押し付けられたり、やったことのない仕事を紹介されたりして困っていました。
そのシェルターは、被害者の滞在期間が2週間なので、相談員Bも焦っていたのでしょう。
ある日相談員Bは、はっきりしないAさんにしびれを切らし、「〇〇さんは(実名)こうしたのだから、あなたもそうしなさい!」と怒鳴ってしまいました。
これにはAさんもびっくりして、泣いて他の相談員Cに話しました。
相談員Cもびっくりして上司に報告しました。
Aさんの担当は即座に替えられ、相談員Bは、次の異動で相談員から外され、処分を受けました。

相談員Bが怒鳴ったことはもちろんですが、別の被害者の名前を実名で挙げたのは、相談員としての自覚が足りません。
相談員Bは、「本当に自分の秘密を守ってもらえるのか?」と不安を抱かせることになってしまいました。

Aさんはその後、担当が替わってからは自分の気持ちを話せるようになってきて、実家の近くの都市でマンションを借り、仕事も見つかって、夫から離れて元気に働いています。

2、警察での例

Dさんは、夜間に暴力を受け、命の危険を感じて近くの派出所に駆け込みました。
そこからDさんは、本署に送られましたが、専門の担当がおらず、交通課の職員Eが対応しました。

Dさんは男性に話を聞かれるのにとても抵抗があり、思ったように話せません。
そこへ警察職員Eは、取り調べでもするように暴力の内容を聞いてきたそうです。
警察の取り調べはとても細かいですから、部屋の断面図を書かされ、何時何分に2人がどのような位置に立っていて、どのような口論になっただの、暴力の内容を事細かに説明させられたそうです。
何時何分に頬を殴られたときは、夫の右手だったか、左手だったか。
何時何分に髪の毛をつかまれたとき、夫の右手だったか、左手だったかなど、もう覚えていませんし、思い出したくもありません。

話がひととおり終わった後、警察職員Eは、「今は夜だから、朝になったら女性センターまで送っていってあげよう。」と言い、Dさんは職員の休憩所で朝まで過ごしたそうです。
警察職員Eは、配偶者暴力相談支援センターの存在も、自分の勤めている警察署がシェルターを持っていることも知らなかったようです。

Dさんは結局、朝、女性センターに送ってもらい、女性センターから配偶者暴力相談支援センターへ移送されました。
そしてやっと、シェルターに逃げることができましたが、Dさんはとても傷つき、それを相談員さんに話しました。

Dさんの話を聞いた配偶者暴力相談支援センターは、その警察署にクレームを出し、警察署は「DVの場合の対応を職員全員に知らしめる。」と回答しました。
そして警察署は研修を行って、「DVの場合の対応のしかた」・「なるべく女性職員が対応すること」・「シェルターの存在」・「配偶者暴力相談支援センターは夜でも対応可能なこと」などを、職員全員に確認したそうです。

このことは、DV防止法が制定されて間もないころでしたし、古い体制の警察が、こんなに即座に対策を講じるとは思ってもいなかったので、配偶者暴力相談支援センターの方がびっくりしていました。
やはり、法律の力ってすごいです。

3、関係機関をたらいまわしにされた例

①xx町役場総合窓口で
Fさんは、子ども2人と家を出る決意をし、昼頃、近くの役場に向かいました。
このxx町は人口5,000人ほどの小さい町です。
ここでFさんは、「家を出てきた。」と窓口で言いました。
町役場の窓口職員は、とりあえず町民相談ができる、町役場の隣の建物の、「社会福祉協議会」に連絡して、Fさんに行ってもらいました。

②社会福祉協議会で
Fさんは、「家を出てきた。」と言いました。
「社会福祉協議会」ではある程度状況を聞き、家を出てきたのであれば、お金がないので困っているのではないかと、生活保護の相談をするよう、都道府県振興局の「福祉事務所」を紹介しました。

③振興局の福祉事務所で
その「福祉事務所」は、xx町役場から車で30分ほど離れた隣のyy市にあります。
Fさんの夫はこのyy市内で働いているので、Fさんが夫の会社への道を通って行くのは危険です。
Fさんは回り道をするため、1時間ほどかけて、車で「福祉事務所」に行き、生活保護の相談窓口に案内され、「家を出てきた。もう帰れない。」と言いました。
生活保護の職員は、少し話を聞き、Fさんの手持ち金がいくらか聞きました。
Fさんは、夫に内緒でこっそり貯めた30万円を持ってきていました。
すると生活保護の職員は、お金があるし、住むところがないなら保護できないので、子どもと暮らすアパートなどを借りて、仕事を探すようにと言いました。
Fさんは、どこに住んだらいいかなどわからないし、もうくじけそうになりましたが、もう帰ることはできないと思い、自分の住んでいるxx町と管轄は違うのですが、yy市役所の「市民相談」の係へ相談に行こうと思いました。
2人の子どもは、お腹が減ってきてグズグズ言っていたので、Fさんはコンビニでパンとジュースを買って、振興局の駐車場で食べさせました。
この振興局は、夫の会社とは少し離れていますが、夫の勤めている市内なので、「車が見つかったらどうしよう?」とヒヤヒヤです。

④yy市民相談窓口で
yy市役所は、振興局からは、車で10分くらいの所にあります。
市役所は夫の会社に近くなってしまうので、Fさんはビクビクしながら、駐車場の少し入り組んだ、見つかりづらいところに車を止め、市役所に入りました。
Fさんは、「家を出てきた。さっき福祉事務所で、アパートを見つけなさいと言われた。」と言いました。
yy市の市民相談員は、さっそく市の福祉事務所に連絡を取り、Fさんのことについて聞くと、「そのようなかたは来られていない。」とのこと。
市民相談員は、それでも困っている人がいるからと、生活保護のケースワーカーに同席してもらうよう頼みました。
ケースワーカーはすぐに来て、市民相談員と一緒にFさんの話を聞きました。
もう子どもは退屈し、「帰りたい。帰りたい。」と言っている中、ケースワーカーは、今までのいきさつを聞きました。
Fさんは、yy市の生活保護相談ではなく、振興局でアパートと仕事を探すように言われたことを話し、すぐ誤解は解けました。
ケースワーカーは、お金を持っているのに相談にきたFさんの行動に違和感があり、Fさんにいろいろ聞きました。
家族構成や、どうして家を出てきたのか、今日のFさんの行動についてなどです。
Fさんはここでやっと「夫に暴力をふられている。」と言いました。

やっと言えました。

ケースワーカーはすぐ、福祉事務所のDV相談員を呼び、一緒に話を聞きました。
Fさんはほどなく、配偶者暴力相談支援センターの持っているシェルターに行くことになりました。
Fさんは車で来ていたので、市役所に車を置いておくと夫に見つかる可能性があるため、シェルターには車を持って行くことになりました。
夫の仕事が終わる時間が近づいていたので危ないところでしたが、間一髪、Fさんは逃げることができました。

Fさんの例では、Fさんが賢明だったことと、夫が仕事中に連絡してこなかったことが功を奏しましたが、少しでも間違うとアウトでした。
Fさんは、お金を持って逃げていますし、夫が通りそうな道を避けたり、駐車場で見られないように車を止めたりと、色々なことに気を使っています。
とても賢明です。
ですが、ずっと「DV」の二文字が言えませんでした。
DV被害者は、自分の考えを言うことに慣れていないので、「肝心なことが言えない」ことがよくあります。

一方、役所の職員の方も、ずっと「DV」の二文字を聞き出せずにいました。
小さい町役場などではだいたい町の人の顔がわかりますし、職員が近所に住んでいることもありますから、相談を受けて、根掘り葉掘り聞くのもためらわれる感覚でしょう。
生活保護の職員は、「保護するか、しないか。」の視点で相談を聞いていますので、お金を持っていたら、「保護しない。」と判断するのも仕方がないことでしょう。

この場合は、どちらが悪かったかという問題ではなく、こういうことはあるということなのですが、職員の教訓になったことは間違いありません。
町役場の職員も、振興局の生活保護の職員も、処分とまではいかなくても、結構叱られたようです。

3つの例を挙げましたが、他にも、
女性センターで、「あなたが夫を支える役目でしょ。」と言われた。
弁護士に、「げんこつくらい当たり前だ。」と言われた。
調停委員に、「暴力をふるわれる方も悪い。」と言われた。
福祉事務所で、ウソつき呼ばわりされた。
などと、聞くことがあります。

二次被害に遭わないために(相談員の質を見る)

私も相談員の時、何回か失敗もしましたし、完璧ではありませんから人のことは言えないのですが、質が悪い相談員がいるということを知っておいて損はないと思います。
被害者も人、相談員も人ですから、「合う・合わない」は誰にでもあります。
ですが、「合う・合わない」の次元を超えて、「ひとに何の配慮もない言動をする人」がいます。
なぜか、そういう人が間違って相談員になってしまうことがあります。
その相談機関で相談する被害者は、たまったものではありません。
DV被害者の多くは、自分の意見を言う能力を、夫によって最低ラインまで引き下げられています。
そこで「ひとに何の配慮もない言動をする人」に当たると、言われ放題です。
その事態は全力で避けなければいけません。

相談した時・シェルターに行った時などに、二次被害に遭わないために、次のような言動をする相談員がいた場合は、担当を替えてもらいましょう。
それが言いづらかったり、できないようなら、話を適当に切り上げて、別の相談機関に行きましょう。
「福祉事務所がダメなら、女性センターに。」というように、相談機関は多いですから、別を当たりましょう。
相談員の方は、仕事でやっているんですから、その相談員に悪いなんて思う必要はありません。
速い判断が、あなたの体と心を救います。

「ひとに何の配慮もない言動をする相談員」は、
・被害者の話を、あまり聞いてくれない相談員。
・価値観や考えを押し付けてくる相談員。
・被害者の落ち度を非難ばかりする相談員。
・相談を受けていて、軽蔑されているように感じる相談員。
・暴力を肯定したり、我慢を勧める相談員。
・相談員同士で、こそこそ話し合う相談員。
などです。

あなたの人生は、相談員のものではありません。
あなたの人生は、あなたのものなので、全部あなたが決定しなければなりません。
あなたの決定能力が落ちているのなら、それをフォローし、決定できるまで待つのが相談員の仕事です。
あなたの意志が、「法に触れている」か「実現不可能」なこと以外であれば、相談員に意見される筋合いはないんです。

自分の意見を言っていい世界が、外には待っていますから、心配しないで大丈夫です。
あなたは何も悪くありません。

次は、そもそも事実婚ってなに?に続きます。
今回も長文を読んでくださって、ありがとうございました。

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