虐待のサイクル
DV夫は、前頁の4つの暴力を巧みに使って、被害者をコントロールし、奴隷化しようとします。
でもDV夫にとって、それだけでは逃げられてしまう不安から解き放たれません。
そして、「アメとムチ」を使います。
DV加害者には、「虐待のサイクル」があると言われます。
私が相談を受けた方も、決まってこのサイクルのことを話されます。
「虐待のサイクル」
①緊張期(第1期)
だんだん気持ちが張りつめ、イライラや不安などの心理的緊張が溜まっていく時期です。
文句や小言が多くなり、ピリピリして怒鳴ったりする状態です。
②爆発期(第2期)
蓄積した緊張が爆発して、ちょっとしたことから暴力をふるう時期です。
③ハネムーン期(第3期)
「もう2度としない。」「愛しているからやった。」などと反省の色を見せて何回も謝ったり、異常に優しくなって親密に振る舞います。
この3つの期間をぐるぐると繰り返します。
「①緊張期」に入ると夫は、ゆっくりとイライラを募らせていきます。
DV夫は、張りつめた性格の人が多いということもありますが、この時期はいっそうピリピリした空気をかもしだし、妻に気を使わせます。
夫はだんだん、妻の小さなアラを指摘し始めます。
「電話に出なかった。」
「洗濯物が乾いていない。」
「友達と長話していた。」
「無視した。」
「片付けができていない。」など、
夫の勝手な理由でイライラし、小さなことでも妻のせいにしたり、説教したりします。
たいてい妻には、夫に対して悪気がないのですが、夫は勝手なルールに従わせようとします。
妻がこのとき反論すると、次の「爆発期」が早く来てしまうだけなので、大人しくしているしかありません。
夫のイライラがピークに達すると、「②爆発期」がやってきます。
気分によって、期間や暴力の種類、程度は変わってきますが、コントロールがきかず、ある程度時間が経つまでおさまりません。
夫は4つの暴力を使って、妻に「夫に逆らえないこと。」をわからせようとします。
夫は暴力により、体と心に「夫の存在」を浸み込ませていきます。
どんな対策をしても、暴力を止めさせることはできないため、妻は、考えるのをやめてしまいます。
「思考停止」した妻は、機械や置物のようにじっとして、時が経つのを待つのみです。
逃げることさえできないほど、思考力は低下してしまいます。
暴力もひと通り終わり、夫がすっきりしたころ(本当は全然すっきりしていないのですが・・・。)、
「③ハネムーン期」がやってきます。
「爆発期」の鬼の形相とはうって変わって、別人のように優しくなり、恋愛中の表情で、
「昨日はごめん。大丈夫かい?」といたわってみたり、
「もう2度としないよ。」と土下座して謝ったり、
「君を愛しているからやったんだよ。」と、あたかも妻のためにやったかのように言ったり、
プレゼントを買ってきて、「俺には君しかいない。」と、派手に愛を伝えたりします。
自尊心を失っている妻は、この時、
「私にもいたらない所があるのだから、謝ってもらって申し訳ない。」とか、
「やっと元の姿に戻ってくれた。ほんとは優しい人だから。」とか、
「夫は私のためを思ってくれている。」とか、
「やっぱり私を愛してくれている。」などと思ってしまうんです。
こうやって、奴隷が出来上がっていきます。
普通に考えれば、暴力を使うこと自体がおかしく、「暴力ふるっておいて、今さら何言ってんの?」と言いたくなるようなことですが、DVの家庭には、常識では考えられないような世界が広がっています。
妻はハネムーン期の夫を基準にする
虐待のサイクルは、「緊張期」、「爆発期」、「ハネムーン期」を繰り返します。
どの時期も夫の性質なのですが、なぜか妻は、「ハネムーン期」を基準に考えます。
なぜなのでしょう?
実は妻は、結婚を決断した時の「優しい人」を基準に考えているんです。
このことは、DV夫の妻でなくてもよくあることです。
結婚してから夫の態度が変わり、「こんなはずじゃなかった。」と嘆いている人も多いと思います。
残念なことに、夫の本性は、結婚して安定したころにわかります。
結婚前に夫の本性を見抜くのは、とても難しいものです。
男性は女性と結婚するために、人生をかけて優しく、頼もしく見せようとしますし、女性は「恋愛の魔法」にかかっていますから、冷静に男性を見抜くのは難しいですよね。
友達に紹介した後、「あの人はやめた方がいい。」と言われたとしても、魔法にかかっている状態で、「じゃあ、やめる。」とは、なかなか考えられるものではないです。
DV夫となると特に、事前に見抜くのは至難の業です。
DV男は最初、暴力のことはひた隠しにしますし、「ハネムーン期」の特性を最初から持っていますから、優しくするのは本当に上手です。
わざとらしいほど優しくするのですが、女性の方は、
「それだけ私のことを愛してくれている。」とか、
「私にはそれだけの価値がある。」と、勘違いしてしまうものです。
自分に自信がない女性はなおさら、優しくされるとハマってしまいます。
家族や友達が、DV男のうさん臭さを見抜いて、別れるように勧めても、逆に恋が燃え上がってしまうのがオチです。
DV男はそれさえも上手に利用し、「ロミオとジュリエット」ばりに、運命の恋を演出するでしょう。
「君のことをわかっているのは僕だけだ。」
と、俳優のようにかっこよく言います。
またもや女性は、コロッとだまされてしまいます。
これは、DV男の作戦でもあります。
家族や友達と敵対するように仕向けることは、結婚してDVが始まってからの、「社会的隔離」の基となります。
もう、DVの準備は整ってきているのです。
そして、女性はDV男の優しい雰囲気に魅かれ、結婚します。
この時の夫の言動が、妻の絶対基準になります。
妻は暴力を受けても、「これはほんとの夫じゃない。」と我慢しています。
夫が、お酒を飲んで暴力をふるう場合はなおさらですが、何かに取りつかれているように思えてきます。
そしてハネムーン期には、本当の優しい夫に戻ったように感じます。
でも、それは全くのまやかしです。
DV夫の本性は、「暴力を使う。」です。
優しいときは、「調教している獲物を逃がさないようにしている」または「取りつくろっている」夫の姿です。
「虐待のサイクル」によって、「アメとムチ」を使い、激しい暴力の後に、手のひらを返して優しくすることで妻を混乱させ、
「本当は愛されている。」「謝っているし、いつか変わってくれるのでは。」などと期待を抱かせるという手法を使っているだけなんです。
暴力がそのうち止むかと思って待っていても、その日はやってきません。
夫が、自分の犯罪に気づき、止めようと心底思わない限り、その日はやってこないんです。
(心底思っても、二度と暴力をふるわない人間になるには、本当に遠い道です。)
そしてDV夫は、もう1つエッセンスを用意しています。
暴力はエスカレートするに続きます。
今回も、長文を読んでいただき、ありがとうございました。