イメージ画像

大丈夫。自由は怖くない

DV防止法について

※このページでは、DV防止法の制定と概要を書いています。
 あまり面白くないので、興味のない方は読み飛ばしてくださいね。

法制定まで

DVは、「ドメスティック・バイオレンス」(domestic violence)の頭文字を取ったものですが、日本語に訳すと「家庭内の(家庭的な)暴力」ということになります。
配偶者や親密な関係にある男女間のことを言い、被害者の多くは女性です。
暴力と言えば、「身体的暴力」が真っ先に思い浮かぶと思いますが、「精神的暴力」「性的暴力」も複雑に重なり合って、長期に、反復して行われることが多いです。
2001年にDV法が制定されてからは、暴力の内容などは見聞きしておられる方が多いと思います。

DVは、昔から世界中で行われてきていましたが、長い間、問題視されないままでした。
「法は家庭に入らず」、「民事不介入」という言葉があります。
この「公私二分論」の原理は、私的である家庭を尊重して国家は家庭には介入しないということですが、プライバシーを尊重する反面、DV、児童虐待、高齢者・障がい者への虐待は放置されてきていました。

1970年代頃からアメリカで始まった「The Battered Women's Movement(殴られた女性たちの運動)」などによる運動を皮切りに、DVは単に個人や家庭の問題ではなく、社会的な、男女のことや経済的な不平等の構造を反映していると、認識されていくようになりました。
各国の運動などにより、1985年「国連婦人の10年」ナイロビ会議、1993年に国連世界人権会議「ウイーン宣言および行動計画」同じ年に、国連総会で「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」と相次いで暴力の撤廃に向けた宣言等が打ち出されました。
1995年、北京会議での「北京宣言及び行動綱領」では、DV被害者が直面する困難に注意を喚起するとともに、各国が取るべき行動として、DVに対処する法律の制定などを規定しました。

日本でも、1977年に東京都が、「東京都婦人相談センター」を開設してシェルターを設け、その後、民間のシェルターも設立されていきました。
本格的な反DV運動は、1992年の「夫(恋人)からの暴力」調査研究会が全国調査を行い、1995年の世界女性会議を契機に、政府の「男女共同参画2000年プラン」で、初めて「女性に対する暴力の根絶」が盛り込まれました。
NGOも活発に運動を展開し、また、1998年8月に、参議院共生社会調査会が発足して「女性に対する暴力」を審議テーマとして取り上げ、2000年4月に、「女性に対する暴力に関するプロジェクトチーム」を設置し、DV防止法の立法に向け、本格的に活動が開始されました。
そして、議員立法により、2001年4月6日に、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)が成立しました。

警察庁も、方向転換せざるを得なくなり、ストーカー規制法(2000年成立)と、DV防止法の成立を目前にひかえた1999年12月に、各都道府県に対し、「女性・子どもを守る施策実施要綱の制定について」を出し、女性や子どもが被害者となる犯罪について、刑罰法令に抵触する事案につき適切に検挙措置を行い、刑罰法令に抵触しない事案についても、国民の生命身体財産保護の観点から、積極的に対策を講ずる必要があると指示しました。

それまでは、妻が殴られても、傷害罪としての検挙も行われていなかったんです。

DV防止法の概要

では、DV防止法では、どんなことが決まったのか、かいつまんで見てみたいと思います。

Ⅰ 全文

全文では、配偶者からの暴力は、被害者に女性が多いこと、暴力は犯罪で重大な人権侵害なのに、今まで十分な救済が行われていないので、男女平等社会を目指して暴力を防止して、被害者を保護する必要があるとしています。

Ⅱ 定義

(1)「配偶者」
「配偶者」とは、夫婦の一方を言い、事実婚は含みますが、恋人や元恋人は対象外なんです。
2013年の改正で少し広がり、交際相手でも、生活の本拠を共にする(いわゆる事実婚)相手も「配偶者」とすることになりました。

(2)「暴力」
成立当初は、「身体的暴力」のことだけだったのですが、2004年の改正で、「心身に有害な影響を及ぼす言動」も含むとして、「心理的暴力」、「性的暴力」も含むことになりました。

(3)「配偶者からの暴力」
「配偶者からの暴力」には、婚姻中の暴力と、その暴力が、離婚後も続いている場合を含みます。
離婚後初めて暴力をふるわれた場合は、該当しないんですね。

(4)「被害者」
「被害者」とは、配偶者から、「身体的・精神的・性的暴力」を受けた人と、離婚後も暴力が引き続いている人のことを指します。

Ⅲ 国及び地方公共団体の責務

国及び地方公共団体は、DVの防止、被害者の自立を支援、適切に保護する責務を負っています。
まず、国が方針を決め、都道府県には計画の義務、市区町村には計画の努力義務があります。

Ⅳ 配偶者暴力相談支援センター等

配偶者暴力相談支援センターは、都道府県が設置する「婦人相談所」またはその他、都道府県・市区町村が設置する施設で、配偶者からの暴力の防止に努め、被害者の保護の中心的な役割を担う機関です。

この支援センターで行われている業務を書き出してみます。

・被害者に関する各種問題に対する相談への対応又は、相談機関の紹介。
・被害者の心身の健康を回復させるための医学的又は心理学的指導。
・被害者と、その家族の緊急時での安全の確保及び一時保護。
・被害者の自立生活促進のため、就業・住宅確保・援護に関する制度利用への情報提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助
・保護命令制度の利用に関する情報提供、助言、関係機関への連絡調整その他の援助。
・被害者を居住させ保護する施設(シェルターやステップハウス)の利用についての情報提供、助言、関係機関への連絡調整その他の援助。
です。かなり具体的に法律で示されています。

被害者が避難して新しい生活を始める時必要な、安全の確保、住宅、就職の相談、子どもさんがおられれば、保育所入所等の準備も必要になるので、その時の情報提供などもあります。
そして、民間団体の役割も大きく、必要に応じ、被害者の保護等の活動を行う民間団体と連携に努めることも、明示されています。

Ⅴ 福祉事務所による自立支援

福祉事務所にも、被害者の自立支援に必要な措置をする努力義務があります。
現在は、大抵の福祉事務所で、相談・保護の情報提供などを行っています。

Ⅵ 配偶者からの暴力の発見者による通報・支援センターによる保護についての説明

暴力を発見した人は、それを支援センターか警察に通報するのが努力義務です。
また、医師などの医療関係者が暴力を発見した時は、支援センターか警察に通報することができます。
医師などの守秘義務を負っている人が、守秘義務のために躊躇することの無いよう、その旨も規定されています。
そして、通報を受けた支援センターの方は、被害者に対して、保護を受けたり、相談したりといったセンターの利用を促すのが妥当としています。このとき被害者は、支援センターの利用を断ることもできます。

Ⅶ 警察官、警察本部長等の援助

警察官は、通報等によりDVを認知した時は、警察法などに基づいて、暴力の制止、被害者の保護などの措置をすることに努めなければいけません。
警察は、被害者から被害を防止するための援助を求められたら、その求めが妥当なら、援助を行います。
警察での援助は、「身体的暴力」の場合に限られます。

Ⅷ 被害者の保護のための関係機関の連携協力、苦情の適切かつ迅速な処理

被害者を守るため、支援センター、都道府県警察、福祉事務所等都道府県、又は市区町村の関係機関、その他の関係機関 は、相互に連携しながら協力するよう努めなければいけません。
そして、被害者から何か苦情があった場合は、適切かつ迅速に処理するように努めなければいけません。

Ⅸ 職務関係者による配慮等

DVの職務関係者は、被害者の心身の状況を踏まえて、被害者の国籍、障害の有無などに関わらず、人権を尊重し、被害者の安全確保・秘密の保持に十分な配慮をしなければいけません。
職務関係者は、被害者が暴力を受けることの無いよう、配偶者からの追跡を受けなうように、また、配偶者と会うことが無いように配慮したり、被害者の話を聞く際に、二次被害を与えないよう、細心の注意を払う必要があります。

Ⅹ 保護命令

保護命令は、被害者の生命、また、身体に危害を与えられるのを防ぐため、裁判所が被害者の申立てにより、身体に対する暴力や、生命に関わる脅迫を行った配偶者に、一定期間、被害者又は被害者の子や親族等へのつきまとい等の禁止や、被害者とともに住んでいる住居からの退去等を命じる裁判です。命令が発せられた被害者には、警察の特別なサポートが与えられ、命令に違反した加害者には刑罰が科せられます。

(1)保護命令の内容
①接近禁止命令
命令の効力が生じた日から6か月間、被害者の住居、その他でつきまとい、またその付近のはいかいを禁止されます。
それは、被害者の子や親族等についても、被害者が申立てると、同じ6か月間接近が禁止されます。
※接近禁止命令には、電話やファックス、その他嫌がらせも含まれます。
②退去命令
被害者と加害者が共に生活していた住居から、加害者は2か月間の退去を命ぜられ、また、その付近のはいかいを禁止されます。

(2)管轄裁判所
保護命令を申立てるのは、①相手の住所の管轄、②自分(被害者)の住所の管轄、③暴力や脅迫が行われた所の管轄の裁判所に申立てます。

(3)保護命令の申立書の記載事項
①配偶者からの身体的な暴力又は生命に対する脅迫を受けた状況
具体的には、いつ、どこで、どのような暴力・脅迫で、受信したか、その診断結果などを記載します。
何回も暴力があることが多いので、通常、何枚も必要になります。
②配偶者の暴力や脅迫が、生命や身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる事情
例えば、別居後に脅迫的な言動で同居の再開を迫ったような場合に、いつ、どのような言葉で要求してきたかを具体的に記載します。
③子への接近禁止命令の場合、命令を発する必要があると認めるに足りる事情
④親族等への接近禁止命令の場合、命令を発する必要があると認めるに足りる事情
⑤支援センター又は警察に相談したり、援助・保護を求めたか、求めたときはその内容

(4)迅速な裁判
裁判所は、保護命令の申立ての裁判は速やかに行うことになっています。

(5)保護命令の審理の方法
保護命令は、原則として、口頭弁論又は相手方が立ち会うことができる審尋の期日を経て、発令されることになっています。ただし、例外として、緊急に保護命令を発しなければ被害者の保護ができないような場合には、その期日を経なくても、発令でき経なくても、発令できます。
被害者が支援センターや警察に相談があったり、援助・保護を求めていた時、裁判所はその支援センターや警察に説明を求めることができます。

(6)保護命令の決定
裁判所は、申立人・相手方双方の審尋の結果、支援センターや警察からの回答なども総合して判断し、保護命令の決定か、却下する決定を下します。なお、相手方が正当な理由なく、出頭の拒否をした場合でも、決定が行われます。

(7)即時抗告
申立人、相手方どちらも決定に不服があるときは、決定を告知されてから1週間以内であれば、即時抗告することができます。そして、即時抗告しても、保護命令の効力には影響ないとされています。効力の停止がなされるのは、保護命令の取り消しとなることが明らかな事情があることがわかったときだけです。

(8)申立ての取消し
申立人は、保護命令が発せられてもそれを取り消すことができます。

(9)保護命令の再度の申立て
命令を受けた被害者は、保護命令が発令された後、再度申立てすることができます。

(10)記録の閲覧等
保護命令の当事者(申立人・相手方)は、記録を見たり、書き写したりする請求をすることができます。

長々と書いてきましたが、目が痛くなっていないでしょうか。

DV防止法には、この法自体を見直す、検討規定が設けられていないことや、加害者に事情聴取を行うことなく、緊急に保護命令を発する運用ができないことや、保護命令は発令されても、退去命令が取り下げられることもあるので、少なからず課題を残していて、今も論議がなされています。

またまた、長々と付き合ってくださり、ありがとうございました。

スポンサードリンク